論文を書くことになったのですが、どうやって書けばいいんですか?
書こうと思っても思考がモヤモヤしてしまって上手く文章化できません。
学生が論文を書くときに意識した方が良いことって何ですか?
当記事では上記の疑問にお答えいたします。
本記事の内容
- 大学院生が論文を書く際に意識したいコツ7選
- 大学院生が論文を書く時間はどれくらい見積もればいいか?
修士で大学を卒業後、企業で研究をしているくりぷとバイオ(@cryptobiotech)と申します。
学士~修士課程の3年間の成果で、幸いにもファーストオーサーの論文を複数執筆することができました。
Peingで以下のご質問をいただきましたので、当記事ではそれに答えていきますね。
この春に、自分の研究成果を論文にまとめることになったのですが、うまく書けずに困っています。
論文を書くコツはあるでしょうか。
なお「論文の書き方」に関しては、これまでに数々の著名な研究者が書籍にしていますので、ここでは詳しく言及しません笑
当記事では修士で論文を運良く書けた人間が「ここを意識した」「こうしておけばよかった」ということをまとめます。
論文を書く際の失敗談も入っているので、ぜひ当記事を読んであなたの論文執筆効率を上げてくださいね。
2~3分で読めると思うので、ふとした休憩時にでも読んでいただけると嬉しいです。
目次
大学院生が論文を書く際に意識したいコツ7選
大学院生が論文を書くときに意識しておくと良いコツは以下の通りです。
- 実験結果を全印刷して机に並べ、論文の流れを仮決定
- 自分が実験した順序で論文を書こうとしない
- 指導教官と論文構成を徹底的にすり合わせる
- 論文を書き始める際に投稿するジャーナルを決める(ボスと)
- 「文章力が無いと書けない」という思考は捨てる
- 「1日○○文字毎日書く」はおすすめしない
- 全部できてから指導教官に見せるはやめよう
順々に説明していきます。
実験結果を全印刷して机に並べ、論文の流れを仮決定
「論文を書くぞ」と決意したあなたが最初にやることは、これまでの実験結果(図や表)を全印刷して机に並べることです。
そしてこれらを並び替え、「どのような流れにすれば論文をスムーズに書けるか」を考えます。
例えば1つの例として、あなたが持っている実験結果が下記の通りだとします。
- A:100種の化合物によるがん細胞死滅アッセイ
- B:がん細胞を死滅させる化合物Xの濃度検討
- C:がん細胞を死滅させる化合物Xの作用時間
- D:化合物Xが死滅させるがん細胞種の検討
- E:細胞内タンパク質Zに対する化合物Xの効果
- F:担がんマウスを作成するためのがん細胞投与量検討
- G:化合物Xの腫瘍縮小能の検討
「がん細胞を死滅させる新しい化合物Xを見つけた」という主旨で書きたい場合、どのように上記の結果を並べればいいでしょうか?
多分流れとしては、A→B&C→E→Gでしょうか。
一方で「ラボで新しく見つけた化合物Xをベースに最適な構造置換を行って、より強い活性を示す化合物が獲れた」を主旨にしたらどうでしょう。
多分流れとしてはB&C→E→G→A→??となり、Aで見出された新規化合物の効果を検証する実験データがまだ足りん!となります。
ちょっとわかりにくいですが、言いたいのは「持ってるデータは不変でも図や表の出し方で論文の結論がずれる」ということ。
論文の結論がずれると、出せるジャーナル誌も変わってきます。
前者の論旨ならJournal of natural productsとかの天然物化学系のジャーナル誌になるかもしれません。
一方、後者の論旨ならJournal of Medicinal Chemistryとかの構造活性相関(SAR)語れるジャーナル誌になるかも。
僕はこの「実験結果を並び替えて論文の結論パターンがいくつできるか」を事前に確認していませんでした。
なんとなく「まあこういう流れで良いでしょ」と決めていました。
それゆえ、いざ論文を書き始めてみると論文の流れがどうもしっくり来ず、何度も何度も流れを考え直す羽目に。
それゆえ論文を書く際には、実験結果の順番をパズルのように並び替えて「一番しっくり来る流れ」を事前に見つけるのがおすすめです。
何パターンか用意しておくとボスとのディスカッションも捗りますのでおすすめです。
自分が実験した順序で論文を書こうとしない
論文を執筆する際には、自分が実験した順序で論文を書く必要は全くないです。
これは卒論でも修論でも言えることかと。
なぜなら、あなたが行った実験の順番が必ずしも論文にふさわしい流れかはわからないからです。
研究を進めていくと「あ、この実験結果を新しく追加しないといかん」と急に気づくことってありますよね。
それは論文執筆に最重要なデータかもしれないし、単にデータを取り逃したことに気づいただけかもしれない。
いずれにせよ、閃きで急に実行した実験結果をそのまま論文に組み込もうとすると論旨が崩壊します。
研究前にしっかり論文の流れを決めて実験を始める人もいると思いますが、その場合でも実験順序のまま書かない方が良いですね。
論文を早く執筆するためにも、自分がやってきた実験の順序にこだわらないようにしましょう。
指導教官と話して論文構成を徹底的にすり合わせる
「論文の流れ」が自分の中で決まったら、指導教官と何度も論文の流れについて話し合います。
コツとしては“あなたが”納得するまで指導教官と意識共有すること。
なぜなら「こういう流れで論文を書こう」と指導教官と学生が正しく共有できていなければ、いざ論文書いた時に「なんだこれは」となる可能性があるから。
特にIntroductionとDiscussionは意見の齟齬があると、本気で全部書き直すことにもなるので気を付けましょう。
大事なのは「あなたが書きたい論文」を書くのではなく、「ボスが書きたい論文」をあなたが書くことです。
論文を書き始める際に投稿するジャーナルを決める(ボスと)
言うまでもないことかもしれませんが、論文を書き始める前に投稿ジャーナル誌を決めておくことが重要。
なぜなら投稿ジャーナルによって論文の書き方がけっこう異なるからです。
ACS系みたいにGraphical Abstractを要求されるケースもありますし、ジャーナルによってAbstractの文字制限がかなり違います。
特に「Article」ではなく短論文である「Letter」に出そうと決めた際には、相当な文字制限と戦うことになります。
ゆえにどんなにボスが忙しいとしても、必ず書き始める前にボスとジャーナル誌の相談をしましょう。
歴代の先輩たちが出してきたジャーナル誌のどれかを何個か選んでおけば、「じゃあこれで行こう」となるはすですので。
許可をもらってから書けばどんなに文章力がない論文を書いても、ボスがそのジャーナル誌を見据えた校閲をしてくれます笑
「文章力が無いと書けない」という思考は捨てる
最初の論文を書くときあるあるですが、文章力が無いから書けない…という発想は捨てましょう。
その発想にシャイニング・ウィザードくらわせてKOしておいてください。
話がやや脱線しましたが、大事なのは「自分の力量のなさを自覚しながらもまずやってみること」です。
最初からNature, Cell, Scienceクラスの感動的な文章を書ける人など存在しません。
Nature, Cell, Scienceクラスの論文を読んで「ああ…自分って全然才能ない」って思う人。
プロサッカー選手の芸術的なフリーキック動画を見て、「ああ…自分って全然才能ない」と思うのと一緒です。
練習してないのに蹴れるはずがない。
四の五の言わずに、まずは書きましょう。
自分の至らない文章力でも、書けば論文は100%投稿できます。
「1日○○文字毎日書く」はおすすめしない
これは人によりけりだと思うのですが、「1日○○文字を継続的に書き続ける」のはおすすめしません。
なぜなら何らかの理由で1日サボってしまったら、自分を責めることになりますし、やる気も無くなるから。
あと何よりも重要なのが、人が何か作業をするときには「初動負荷」というものがかかります。
これは山本憲明さんが執筆された「なぜあの人は定時に帰るのにNo.1なのか?残業ゼロの仕事術」で使われていた表現です。
あなたも作業に取りかかる際に「気が乗らないなぁ」とか、これまでにやった箇所を思い出すのに時間がかかったことはありませんか。
これが「初動負荷」で、毎日定期的に続けているものでも「今日はこれ乗り気しないぞ…」となるのが人間というもの。
毎日定期的に進めるよりは「論文執筆の日」を1日設け、そこで全力で書いた方が一気に進みます。
そしてその方が「初動負荷」は少なく済む。
修士で論文を書くのは研究もあり、就活もあり、学会もあり、雑誌会もありでけっこう時間がないです。
毎日の論文執筆というタスクを追加するよりも「1週間に1回は論文執筆dayをつくる」とやった方が気持ちの切り替えもできますよ。
全部できてから指導教官に見せるのはやめよう
論文は全部書き終わってからボスに見せると、大どんでん返しをくらう可能性があるので注意しましょう。
全部書いてから見せて真っ赤に修正されて返ってくると、精神的に堪えるものがあります。
今振り返ってみると、例えば以下のような流れで論文を書くのもありだったかなと感じます。
Figure LegendsとIntroductionを仕上げてボスに見せる
↓
添削の間にResults本文を完成させる
↓
添削が返ってきたらResults本文をボスに見せる
↓
Introductionを直しながらDiscussionも書き進める
こんな感じでボスとキャッチボールしておけばもっと早く論文が書けたかもしれません。
もちろん「全部書いてから持ってこい派」のボスもいます。
そこは書き始める前に「できた部分から持ってきても良いでしょうか?」と確認するのが吉。
ラボのトップに合わせた論文執筆を心掛けるのが一番効率よく論文を書けると思うので、積極的にボスの真意を確認しましょう!
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大学院生が論文を書く時間はどれくらい見積もればいいか?
前項では僕が大学院生で論文を書いた時に意識していたこと・こうしておけばよかったと思うことを説明しました。
ちなみに余談ですが、大学院生は論文を書くためにどれくらい時間が必要と算出しておけば良いでしょうか?
専攻分野の違い、投稿するジャーナル誌のレベルなどで変動しますが、大体「半年~1年」を見積もっていた方が良いです。
ちなみに僕が初めての論文をM1で執筆した際には、以下のように時間が過ぎていきました。
- 論文執筆:3~4か月
- 論文校閲:1ヵ月
- 論文査読:1~2ヵ月
- 査読対応:1か月
大学院生のうちに一本書きたいのであれば、少なくとも修論で忙しくなる前に執筆を始めることが重要。
現実的に考えて、修士2年のGW前には論文構想を練っておきたいところ。
「実験結果」が全て揃っていなくても、IntroductionやMaterials&Methodsを書き進めることはできます。
それゆえM1くらいからコツコツと進められるところは進めていきましょう!
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「論文を書くのが遅い」と悩む必要はない
というわけで当記事は以上です。
大学院生(特に修士)の段階で論文を書くという経験は、博士課程に進学しても企業に就職しても必ず役に立ちます。
初めての論文執筆は「書くのが遅すぎる…」と100回くらい絶望するかもしれませんが、誰でもそんな感じなのでご安心を。
ぜひとも自分の研究成果を「論文」として世に発信して、研究者の登竜門を登ってくださいね。
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Let’s enjoy your science life!
良き研究者人生を。